スマホが登場してから10年がすぎ、当初は1,500mAh程度だったバッテリーも3,000mAhを優に超えてきました。
そうなると従来の10W未満の出力では充電に時間がかかり過ぎてしまいます。
その解決策として、2013年に登場したQualcommの「Quick Charge 1.0」を筆頭に出力の高い急速充電が登場!
しかし、複数の急速充電やUSBの規格が誕生したことで、非常にわかりにくいのが現状です。
ということで、今回は「Quick Charge」や「USB-PD」など複数の規格が乱立する急速充電の仕組みや規格を徹底解説していきます!
急速充電とは?
そもそも急速充電とは、ざっくり言ってしまうと通常の充電より多くの電力を流すことでより速く充電する仕組みです。
上記の画像の用に電力[W/ワット]とは、電圧[V/ボルト]と電流[A/アンペア]を掛けた結果です。
つまり流す電圧[V/ボルト]と電流[A/アンペア]をあげることで電力[W/ワット]を増やし急速充電を可能にしています。
※厳密には、抵抗R[Ω/オーム]があるので、電圧×電流=電力とはなりませんが今回は割愛します。
また、急速充電の規格とはただ単に出力をあげるだけではなく、給電側からデバイスやバッテリーに対して最適な充電を提供するため規格であり、[充電器、デバイス、USBケーブル]全てに関わってくるので複雑になっているといえるでしょう。
- 通常より高い電力での充電
- 充電器だけでなくデバイスやケーブルも関係
- 電力[W/ワット]=電圧[V/ボルト]×電流[A/アンペア]
急速充電の仕組み
急速充電は、電圧と電流を昇圧することで、受電側のバッテリーが20~80%の充電容量の間に電力を増幅する仕組みで充電しています。
なぜ、0~100%の間の全状態で急速に充電しないかというとリチウムイオンバッテリーの特性上、満充電や空に近い状態で充電すると50%付近と比べるとダメージが多く劣化加速してしまうためです。
実際、プリウスなどハイブリッド車のバッテリーでも40~60%をメインに利用していて、満充電や空に近い状態にはしません。
ただでさえ高い出力での充電はバッテリーにダメージを与えてしまうので、バッテリーの残量の応じて可変で出力が変更される設計になっているといえるでしょう!
急速充電に必要なUSBケーブル規格について
USBケーブルの規格は、大きく分けると「コネクタの規格」「データ転送速度の規格」「給電の規格」3つに分けられます。
そのため、充電器やスマホなどのデバイスがQuick Chargeに対応しているのに、充電が遅い場合や充電ができない場合などUSBケーブルを疑いましょう!
また、それぞれ複数の規格があり上記画像のように、
- 「給電のみのUSBケーブル」
- 「給電+データ転送対応のUSBケーブル」
- 「データ転送のみのUSBケーブル」
の3つが存在するためそれぞれ解説していきます。
USBのコネクタ
USBの規格で使われるコネクタは非常に種類が豊富なため、今回は主に充電器やスマホなどに使われるコネクタだけを紹介します。
充電器やスマホなどのデバイスで使われるUSBコネクタは、以下の3規格です。
- USB/TypeA
- micro USB/TypeB(microUSB)
- USB/TypeC
一昔前は充電器側やパソコンには「USB/TypeA」が搭載されており、スマホなどの小型のデバイスには、一般的に「microUSB」と言われる小型の「microUSB/Type B」が搭載されていました。
また、2015年後半辺りから裏表が関係なく利用できる「USB/TypeC」がスマホなどから一気に採用され始め、最近では後述する「USB-PD」の普及に伴い充電器を含むあらゆるデバイスに採用されてきています。
USBの規格と転送速度
USB規格 | 転送速度 | 電圧/電流 | 電力 | 方向 |
USB 2.0 | 480Mbps (60MB/s) | 5V/0.5A | 2.5W | ホスト→デバイス |
USB 3.0 | 5Gbps (625MB/s) |
5V/0.9A | 4.5W | ホスト→デバイス |
USB 3.1 Gen1 | 5Gbps (625MB/s) |
5V/0.9A | 4.5W | 双方向 |
USB 3.1 Gen2 | 10Gbps (1250MB/s) | 5V/0.9A | 4.5W | 双方向 |
USB 3.2 | 20Gbps (2500MB/s) | 5V/0.9A | 4.5W | 双方向 |
USBの転送速度は、上記の表の用に飛躍的に転送速度が上がってきています。
「USB/TypeC」のコネクタの場合、「USB3.1」以上だと思われているケースもありますが、「USB/TypeC」コネクタでも「USB2.0」のケースがあるので気をつけましょう!
また、「USB 3.1」からは双方向での給電も可能となり、双方向が「USB/TypeC」の場合、充電専用の信号を双方向で受け取れる「CC」という機能があるため、対応機器の場合自動的に急速充電を行うことが可能です。
USBの給電規格
USB給電規格 | 電圧/電流 | 電力 |
USB BC[Battery Charging ] | 5V/1.5A | 7.5W |
USB Type-C Current @1.5A | 5V/1.5A | 7.5W |
USB Type-C Current @3.0A | 5V/3A | 15W |
USB Power Delivery | 5V ~ 20V/3.0~5.0A | 100W(最大) |
USBには転送速度や基本給電の基本規格以外に、上記の表の用に給電用の規格が存在します。
表の通り「USB Power Delivery」(USB-PD)の性能が圧倒的に高く、USB-PDに対応していればコネクタは「USB/TypeC」かつ「USB3.1」以上が確定のため、特別な理由がなければ「USB Power Delivery」対応のUSBケーブルを選択するのがおすすめです
また、「USB-PD」には、USB-IFが定めた認証プロトコルを組み込みこむ事が推奨されているのでできる限り規格に準拠している製品が選びましょう!
急速充電の規格について
急速充電には、USB-PD[Power Delivery]以外にも「Quick Charge」やスマホやモバイルバッテリーメーカー独自の規格があります。
そのため、規格そのものの互換性に加え、充電器やUSBケーブル、デバイスの全てが対応していないと使えないなどの制約も…。
とはいえ、2020年にはある程度USB-PDに収束してきているので、USB-PDを中心に規格の互換性や特徴を解説していきます。
実質的標準規格の「USB-PD」
USB-PD[Power Delivery]は、電圧が[20V]電流が[5A]の最大100Wまでの急速充電が可能な規格です。
2018年辺りから徐々に普及してきており、スマホに限らずノートPCのなど最も汎用的に利用できる規格になっています。
とはいえ、[充電器側][USBケーブル][デバイス]全てが「USB-PD」に対応している必要が有り、充電器やUSBケーブルは多くの場合買い換える必要があります。
USB-PD 2.0まで適用の「パワープロファイル」
USB PD[Power Delivery] | 電圧 | 電流 | PDP(W数) |
Profile① | 5V | 2A | 10W |
Profile② | 5/12V | 1.5/2A | 18W |
Profile③ | 5/12V | 2/3A | 36W |
Profile④ | 5/12/20V | 2/3A | 60W |
Profile⑤ | 5/12/20V | 2/5A | 100W |
「USB-PD 2.0」までは上記の表のように5つのプロファイルに分かれていて、デバイスにより対応電力が異なります。
とはいえ、現在「USB-PD 2.0」未満がが採用されることはないので、あまり意識するする必要はありません。
USB-PD 2.0以降の「パワールール」
PDP(W数) | 電圧 | 電流 |
0.5~15W未満 | 5V | PDP/5A |
15~27W未満 | 5V | 3~(PDP/9A)A |
27~45W未満 | 5V/9V | 3~(PDP/15A)A |
45~60W未満 | 5V/9V/15V | 3~(PDP/20)A |
60~100W未満 | 5V/9V/15V/20V | 3~(PDP/20)A |
100W | 5V/9V/15V/20V | 3~5A |
現在のUSB-PDは、「USB-PD 2.0」以降のため上記表のように「パワールール」を採用。
プロファイルルール時より選択可能なPDPが増え、オプションで電圧や電流を可変させる「PPS」(プログラマブル・パワー・サプライ)も利用できるため、より急速充電の最適化がされています。
また、表にはありませんが、12Vなどの電圧も利用可能なので、スペック表などで12Vの記載があっても[USB-PD対応]などの謳っていればUSB-PDと認識しても問題ありません。
スマホの対応が圧倒的な「Quick Charge」
Quick Chargeの規格 | 電圧 | 電流 | 電力 |
Quick Charge2.0 | 5V/9V/12V | 2.0~3.0A | 18W |
Quick Charge3.0 | 3.6~12V | 2.0~3.0A | 18W |
Quick Charge4.0 [後方互換なし] |
3.3~20V | 3.0~5.0A | 27W |
Quick Charge4+ | 3.3~20V | 3.0~5.0A | 27W |
Quick Charge5 | 3.3~20V | 3.0~5.0A | 100w |
「Quick Charge」は、アメリカのスマホ向けチップメーカーQualcommが開発した急速充電規格。
Qualcommは、モバイル向け半導体企業でAndroidスマホに採用されるSoC(CPUやGPUなどを統合したシステム・オン・チップ)を開発販売している企業ため、多くのAndroidスマホにQualcommのSoC[Snapdragon]が採用されています。
特に国内ではドコモなどのキャリアから販売されいるスマホの大半が採用しているので、iPhoneの利用者を除けば殆どの人が「Quick Charge」対応デバイスを持っている国内では最もポピュラーな規格です。
「Quick Charge4.0」以降は、「USB-PD」にも互換性があるため最新のハイエンド端末ではほぼ間違いなく、「USB-PD」も利用可能です。
また、「Quick Charge4.0」からは、Quick Charge動作時の最大出力は18Wと変わらないものの電圧を0.2V単位の刻みで動作し、「USB-PD」動作時には、最大出力が100Wになり電圧が0.02V単位、電流が50mA単位の刻みで動作するなど恐ろしいほどの最適化がされています。
2020年に発表された「Quick Charge5」は2SnPバッテリーをサポートすることで最大100Wの出力を実現。
対応スマホはSnapdragon 865/865 Plus以降のため、まだまだ少なく今後に期待です。
「Quick Charge」を利用する上での注意点は「Quick Charge4+」の後方互換、充電器が「USB-PD」に対応している場合は問題ないですが、充電器が「Quick Charge3.0」でデバイスが「Quick Charge4.0」の場合など急速充電ができないので注意しましょう!
USB-PD互換の「Apple高速充電」
AppleのiPhone/iPadなどの急速充電規格は中身は「USB-PD」なので、MFi認証されたUSB-C to Lightningケーブルと「USB-PD」に対応した充電器があれば急速充電可能です。
また、2020年時点でiPhone 12の最大充電入力は20Wまでのため、Androidのハイエンドモデルと比べると対応電力は低め。
ちなみに、MFi認証とは、「Made For iPhone/iPad/iPod」のことで、即ちApple製品に向けてちゃんと作って基準も満たしている認定を受けているケーブルのことを指します。
きちんとした、iPhoneやiPad用の製品には必ずMFiロゴが入っているので良く確認して購入しましょう!
スマホやモバイルバッテリーメーカーの「独自規格」
急速充電の規格はここまで紹介した以外にも、充電器のメーカーやSoCを開発するMediaTek、スマホのメーカーHuawei、VIVO、OPPO、Xiaomiなどの独自規格があります。
特に中華スマホメーカーの独自規格は120W以上の充電を可能にしており、性能的には申し分ないのですが、充電器とデバイスセットでの利用が前提となるため、シェアや充電器の対応状況などから国内では実質的に選択肢から外れます。
逆に厳密には規格とは言えず性能は低いものの、以下のモバイルバッテリーメーカーの急速充電の使い勝手は良好です。
- Anker「Power IQ」
- cheero「Auto-IC」
- RAVPower「iSmart」
それらの急速充電は「USB-PD」の急速充電とは異なりデバイスに合わせた適切な出力をICチップで制御することでやや早く充電ができる技術です。
そのため、機器側とのデータのやり取りは基本的になく急速充電の性能としては「USB-PD」や「Quick Charge」などには劣るものの、ほぼ対応機器の縛りがなく汎用性が非常に良いので一般的な利用では利便性が高いといえます。
また、その中でも「Power IQ」は、更に進化を遂げていますので下記で解説します。
圧倒的な汎用性を誇るAnker「PowerIQ」
Anker「PowerIQ」 | 電圧 | 電流 | 電力 | 互換性 |
PowerIQ1.0 | 5V | 1A/2A/2.4A | 12W[最大] | なし |
PowerIQ2.0 | 5V/9V/12V | 1A/1.5/2A/2.4A | 27W[最大] | Quick Charge3.0 |
PowerIQ3.0 | 不明 | 不明 | 100W[最大] | Quick Charge3.0/USB PD |
充電器側の急速充電では、Ankerの「PowerIQ」が有名です。
「PowerIQ」は充電器側が接続されたデバイスを検知して最適な電力を供給する仕組みで動作するため、、厳密には規格ではなく電源コントロール用のICを使いデバイスに最適な電力を供給すると考えた方が正確です。
Ankerの「PowerIQ」はユーザー視点で見た場合、特に規格などを考える必要もなく利用できるため、先で述べたように複数のデバイスを所有する場合、難しく考える必要は有りません。
また、他のモバイルバッテリーの急速充電より互換性が高く
- 「PowerIQ2.0」から「Quick Charge3.0」互換
- 「PowerIQ3.0」から「USB-PD」互換
と利用者の多い急速充電規格に対応している点。
そのため、「PowerIQ3.0」は現状で最も充電規格を意識せず利用できるのでAnker製の充電器やモバイルバッテリーは非常におすすめです。
急速充電対応のおすすめ機器
急速充電の規格や対応するUSBケーブルなどここまで解説をしてきましたが、全て網羅して商品を選ぶのは中々大変ですよね。
そのため、考え方としては細かいことは気にせず「USB-PD」に対応した商品を買っておくのが良いでしょう!
唯一の欠点は「USB-PD」対応の[充電器、モバイルバッテリー、USBケーブル]を揃えると少し価格が高い点。
しかし、「USB-PD」は規格的に多くのデバイスに適用できるスペックを持っており、業界標準として普及して来ているので、現在のデバイスだけでなく将来購入するデバイスでもそのまま利用できる可能性が高く長い目でみればお得です。
特にUSBケーブルに関しては、箱を捨ててしまうとスペックもわからなくなってしまうので統一しておくと良いですね!
また、どうしても「USB-PD」対応商品で気に入る選択肢がない場合、長期に渡る利用、汎用性、コストの視点からコストパが高いAnker「Power IQ3.0」対応製品がおすすめです。
急速充電についてまとめ
急速充電についてスマホやタブレットなどのデバイスを短時間で充電してくれるので、急ぎの時に特に便利です。
また、最近のスマホの多くは「USB-PD」に対応しているため、USBケーブルと充電器やモバイルバッテリーを揃えればすぐに利用できます。
しかし利便性が高い分、大きい電力の充電はリチウムイオンバッテリーの特性上、ダメージを与え、寿命が縮まりますので、状況に併せて急速充電と10W前後の充電を組み合わせるのがベスト!